5/26 外部講師の方々のレクチャー エスキス

本日は、3人の外部講師の方に、レクチャーをしていただきました。

3人の先生方、興味深いレクチャーをありがとうございました。

《松川淳子先生レクチャー》
被災から復興へ ―仮設市街地をめぐって―

自己紹介 専門は建築計画。大学・大学院・助手の4年間を本郷で過ごす。
その後、生活構造研究所設立。阪神淡路大震災後から防災を扱い始める。

地震発生、避難所生活は長くても2〜3か月程度であり、その後、仮設住宅に移動し2〜3年を仮設住宅で過ごす。郊外だと、仮設住宅生活は5〜6年になることもある。その後、恒久住宅へと移動する。
仮設住宅地は、避難所と復興の狭間で重要な役割を果たす。暮らしと仕事の復興の場、生活エネルギーの回復の場、住民が共同して生活する場でもある。中越地震・長岡のプレハブ住宅やトルコなどの例を見て、2〜3年の期間といっても、仮設住宅はこのままではいけないと思った
関東大震災の時には、常盤小学校・日比谷公園といった事例で、靴屋など、仮設住宅とともに生活に必要なさまざまな施設も作られていた。
トルコの事例では、東部のマルマラという地域で、さまざまな形のテントが仮設住宅として作られた。小学校などの施設も崩壊したため、自力でテントを作る必要があった。巡礼のときのテントや、トラクターを利用したテントの例も見られた。
トルコの計画的なテント村では、軍隊が使用するしっかりした作りのテントが、軍隊によって建設された。その後、テント村の中心部には、共同洗面所・店舗などが入ったプレハブができ、まるで仮設の市街地のようである。
トルコにイスラエルが寄付したコンテナの集合体では、コンテナ一棟に3戸並べたものを、4辺にロの字型になるように配置して、中央に中庭を配置している。中庭は、子供の遊ぶ場や物置など、さまざまに利用される。
トルコの木造仮設住宅地では、木造にパーゴラやパラボラアンテナなどをどんどん増築 していった例がある。
台湾のサオ族の仮設住宅地では、仮設住宅をサオ族の港として、恒久建物として考えている。屋根・壁は半割の竹材で作っていた。
四川の例では、プレハブの隣棟間を緑化し、その庭に椅子を置いたり、お茶をしたりする。人力資源市場(ハローワーク)があり、被災者の心の支えとなっている。また、子供の遊び場や、高齢者が集まってマージャンをする所、店開きしている床屋、野菜売りの台車などがある。
中国は、仮設住宅の居住期間の短縮に尽力しており、1年半ほどで恒久住宅に移動が始まっていた。中国は日本と違って室内で靴を脱がないので、床を張らないでよいという簡単さがある。また、水周りを一か所に集中する形式である。仮設住宅の工期短縮などのメリットがある。
現在、私が支援している被災地は、岩手県の岩泉町と田野畑村である。首長さんたちは、どうしても、「仮設にはあまり手をかけないで、恒久住宅を良くしたいという意識になる。
仮設住宅の環境を良くしようと提案しても、建設の仕組みからすると、なかなか市町村にできることは少ない現状がある。それでも、彼らなりに工夫して、プロパンガスのボンベを隠すプランターの設置や入口付近に花のプランターを置いたりしている。
 田野畑村仮設住宅では、住戸が大幅にバリアフリー化されるなどの工夫がある。

仮設住宅に何が必要か?配布資料「訪問した村・仮設住宅地一覧」を参考に、仮設市街地4原則を考えることが必要である。
①地域一括原則
②被災地近接原則
③被災地主体原則
④生活総体原則―次の道を切り開く拠点「場」と「人」と「仕組み」

「場」とは…
トルコの例では、女性のアトリエや図書館やコンピューターセンターやレストランなど、仮設住宅地の施設が充実している。トルコには、緑化コンペを主催するような管理人がいるところが良い。


《寺尾信子先生レクチャー》
「最小限住宅2011 -----50年前----今----50年後-----」
最小限住宅と前川國男について紹介。1929年ドイツで開催された第2回CIAM近代建築国際会議)にコルビュジェの代理で、当時所員として最小限住宅を担当していた前川國男が出席。「最小限住宅」は大会のテーマであった。コルビュジェの提案した住宅(前川國男生誕100年の展覧会図録の写真から)は、2軒でひとつの建物を構成し、真ん中の組石造の壁1枚を2軒で共有する方式である。当時、工業化住宅に地元の建築関係者は反対していたが、真ん中の組石造の壁以外は工業化製品で構成されていた。
1958年竣工の阿佐ヶ谷住宅について、貴重な文化財として残しておくことが望ましいが、個人所有の分譲住宅であり、現況、いつ取り壊される分からない状態である。デザイナーは、前川國男大高正人(住宅設計担当、174戸のテラスハウス)、津端修一(配置計画担当)、田端貞寿(ランドスケープ担当)である。津端修一は、レーモンド事務所を経て創生期の日本住宅公団に入り、多数の優れた公団団地の配置計画を担当した。阿佐ヶ谷住宅のカーブ道もフリーハンドでデザインしたと言われる。コモンスペースや築山のデザインが良い。招き屋根のテラスハウスは、今では増築されている所が多い。全ての住宅に共通の寝ること、食べることなどに加え、外部環境の豊かさが住宅に大きな影響を与える。周囲の庭は、天国ではないかと感じられるほど、植栽豊かで、四季折々の花などが楽しめる。建物は補強コンクリートブロック造であり、温熱環境は悪く、夏暑い、冬寒いという問題がある。外断熱をして適切な通気計画をすれば、良い環境になり得るだろう。内部は、1階にキッチン・リビング・水洗トイレ・風呂などがあり、1階と2階を急な階段で繋ぎ、2階に4畳半が2部屋、屋根の勾配下に物置がある。
 東日本大震災に関してJIA福島地域会では、20〜40㎡の計330戸の仮設住宅の設計協力を行った。実際には30㎡タイプが多く建設される模様。寒い地域(省エネ法地域区分:ⅡまたはⅢ地域)で断熱強化を提案している。次世代省エネルギー基準に近づけており、県の仮設住宅の規定を大幅に上回る性能の良さである。2パターンの内1パターンは、木の杭で床下は外気である。もう1パターンは、コンクリートのべた基礎であり、蓄熱を期待している。
前研究室でシミュレーションを行い、福島県の標準仕様と比較した。設定は、400Wの内部発熱を仮定し、一室空間としてソーラーデザイナーで計算した。改善を加えたケースでは、窓性能の強化、断熱材の強化、べた基礎(蓄熱床)の設置などを行った。冬の計算では、福島モデル(Q値:5.14W/㎡K)では外気より5℃程度高い水準で、JIAモデル(Q値:2.65W/㎡K、次世代省エネルギー基準程度)では外気より10℃程度高い水準で推移するという結果がでた。朝方の冷えが大きい点にどちらのケースでも問題がある。夏の計算結果では、ほとんど外気と同じ温度で推移していた。緑のカーテンで日射を遮蔽し、夜間は窓開けを想定して換気30回/hとする設定である。LowEガラスで窓仕様を強化するケースでは、若干冬場の朝方の冷えが改善された。フェノールフォームで断熱を強化するケースでは、冬場の室温が上昇する。べた基礎を蓄熱床とするケースでは、冬場で終日1.5℃程度、室温が上昇する。
シミュレーションの大切なところは、設計段階で善し悪しが確かめられる点であり、また経済的にも考慮できる点が良い。スタジオ課題でも、シミュレーションを使用して設計に活かして欲しい。


《末光弘和先生レクチャー》
「環境の時代の新しい建築を求めて」
自己紹介 伊東事務所に6年間勤務。現在は夫婦で事務所を開設。

身体性と都市のスケールを結ぶ、6つの項目について。
身体← ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ →都市
①新しい身体性 ②見えないコンテクスト ③自然に内在するシステム ④環境アルゴリズム ⑤経済×環境 ⑥環境の公共性

①新しい身体性「より高度な身体的な快適性とは何か」
高断熱・高気密の人工空間だけではなく、自然の中の快適性も取り込みたい。
 事例:深大寺の住宅 Kubomi
角地の敷地であり、周囲に緑・生垣が多い。1階を、緑を取り込む開放的な空間にし、スタジオ(施主がアマチュアバンドのベーシスト)・キッチン・ダイニングなどを配置。半地下的な空間とし、入口と比較して、ダイニングを-700mm、キッチンを-900mm、スタジオを-1200mmとした。
地中に蓄熱をする。サーモスラブ(床暖房システム、北海道などに多い)を採用し、床・基礎は断熱をしない。夜間電力で地中に蓄熱をし、日中は運転を停止する。測定結果では、冬期、1階は20℃程度、2階は18℃程度で安定して推移する。

②見えないコンテクスト「環境工学的コンテクストを読み込む」
 事例:地中の棲処(すみか)
敷地は、変形敷地の急勾配の土地で、誰も買わないところを施主が安く買い取った。空調のない家を目指した。立体測量を行い、日当たりがいい所にリビングを配置…などのようにプランに反映させた。地中の温度の測定を行い、温度の把握を行った。構造的には地滑りが多い土地であり、8か所ほどボウリング調査を行った。2〜3mの深さで良好な地盤が確認され、その深さまで建物の基礎を持っていく必要があるという所から、地中に埋まった形態が生まれてきた。
断面的には、最上部に駐車場、上部から下に入ってリビング・ダイニング、地中に埋まったトップライトのついた風呂がある。その下にライブラリがあり、更にその下に主寝室・子供部屋がある。
クールチューブを建築化した形状である。南側斜面を吹き上がってくる風を採り入れるように開口を配置している。セラミック粉末の入った塗装を躯体表面に施し、遠赤外線の放射機能を活用する。
リビング・ダイニングは土間で、半屋外のイメージであり、外部との連続性を大切にしている。
外部は土仕上げで、もともとの周囲の赤土と色を揃えている。

③自然に内在するシステム「自然界の環境調整システムを建築に翻訳する」
 事例:我孫子の住宅 Kokage
南側の庭を取り込む。木造構造ユニット10本で、室内に木陰をつくるというコンセプト。1階全体を林のような空間にする。
ユニット全部アシンメトリーに作る。ユニットをずらしてその間から光を採り入れる。また、ユニットは、在来軸組みで、お互いにもたれあう形で構造的に安定している。
井戸水で壁面放射冷房をする。床暖用パネルを壁に埋め込み、井戸水を通す。冷房は、大工さんとアルバイトの人と自分で施工した。
夜間は間接照明を使用して壁・天井を照らす。

④環境アルゴニズム「新しい時代の合理性を再定義する」
 事例:大濠の家 Hakage
木造3階建。葉っぱの蒸散作用を利用。雨水をポンプアップしてセラミックルーバーに流し、気化熱で外気を冷やし、風通しの良いスキップフロアの内部空間に取り込む方式を予定していた。雨水利用は、バクテリアの問題で、途中で諦めた。
壁面は一面がルーバーであり、その配置は一見ランダムだが、形のルールを決めて決定している。葉っぱが重ならないように生い茂るように、影のシミュレーションしながら配置を決定する。
体感を伴ったモックアップを作成し、実験を行った。外気温が32〜33℃の時に、日向で26℃、日陰で23℃程度になった。

⑤経済+環境「経済至上主義と環境建築の共存」
   事例:BELLE VUE, RESIDENCES
シンガポールの集合住宅、伊東事務所で携わった住宅。
21世紀は自然資本主義「商業的価値+自然的価値=MONEY」という設定をし、表面積の最大化を図る。シンガポールは北側採光がなく、建物がいろんな方向を向かせることが出来る。建物は枝を伸ばすような配置で、 1つのコアと4住戸で構成される。表面積の増加は視界と換気で有効である。

⑥環境の公共性「閉じないことが生む新しい公共性」
事例:POROUS 1500人のための集合住宅。
高層のタワーマンションではなく、中高層に抑えて、ボイドを最大化する。都市空間と自然空間の混在した住宅とオフィスの複合体で、都市空間(public)、自然空間(common)、占有空間(Private)からなる。都市空間に接するオフィスと自然空間に繋がる住戸の1セットになっている。
賃料と空間に関して、通常50㎡の占有スペースを持つところを、新しい集合住宅では30㎡の占有スペースと20000㎡の共有空間からなる方式を提案する。

これら①〜⑥をどのように具現化するか?Design(デザイン)、Lab.(実験/検証)、Production(制作)のバランスを大切にした、新しいアトリエのかたちを作っていきたい。


レクチャーの後に、受講生が2分間で考えてきた最小限について発表しました。各受講生の発表内容です。
【坂本】
 先週:家具の分割が最小限
 今週:無駄な情報におぼれてしまうのでは?
    能動的な情報の収集
 単身者のための集合住宅(情報最小限)+メディアセンター
 自分が収集した情報による他者とのコミュニケーション

【ヂャオ】
 改築必要の最小限
 ライフサイクルと住要求の関係
 ライフサイクルの変化によって、住要求上がる時期と下がる時期がある
 エネルギー消費の最小限
 敷地:南側に高層建物→日照× 北側に公園→風の為に窓開らけれずに眺望×
 コンセプト:自然に光や風が抜ける 

【大沼】
 新しい「家」の在り方
 都市の家族問題、密集地における住環境の悪化→3つの機能不完全住宅
 「3つの家族か?1つの家族か?」→家族の在り方に対する問いかけ
 住む人へのメリット(庭)+街区へのメリット(風穴)
 構法:在来木造2階だて
 イメージ:アトリエ・ワン ミニ・ハウス

【須田】
 家族の人数・の最小化
 単身世帯の戸建住宅 ライフスタイルの提案
 機能を都市にゆだねる(食・サードプレイス)
 スタディ:屋根−2畳のタクシー運転手の家、窓−夫婦と子供の家

【草川】
 開口を最小限に 都市環境に「依存」する、寄生する
 地下鉄の換気塔 地下鉄の空気は場所によって温度異なる、深いほど低い

【栗原】
 快適に暮らせる総合的な最小限住宅
 ボリューム・エネルギー・犯罪発生の最小限
 敷地:根津 職住一体の単身者向け集合住宅
 仕事場と住宅間での熱移動 夜、仕事場開放(例:キッチン)
 素材:地域に合わせて選定 例:裏通りは木造
 
【飯島】
 照明最小限 明るい部屋を中心にした空間
 材料:木造(CO2排出0) 2×4(気密性)

【牧野】
 2人暮らしのための延べ床最小の家
 2人→夫婦、DINKS→兄弟→恋人→親子→友人など
 イメージ:9坪ハウス核家族のため)×n
 木造在来工法 ワンルームの設備で快適に住めないか?

【清野】
 東日本大震災の復興住宅 原発の30%に頼らない住宅
 地中熱の利用 季節による住み分け
 敷地:崖・洞窟
【山田】
 エネルギーと食料の依存を最小限
 敷地:;長野県高森町 遊休農地多い
 鉄骨造 温室の温熱環境の改善が必要
【リ】
 高齢化社会・地方で過疎化・地方のモータリゼーション
 最小限生活圏 徒歩圏 歩ける郊外
 生活に最小限必要な行動は? 寝る・食べる・買い物・風呂・トイレ・休憩…



その後、講師の方々からエスキスをしていただきました。

受講生の皆さんは、いろいろな方からさまざまなご意見を頂いたと思いますので、それを基に火曜日までにしっかり案をブラッシュアップして来て下さい。